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孤独死の初動対応マニュアル|72時間でやるべきこと

2025.10.16

はじめに

「入居者と連絡が取れない」 「ご遺族から、身内が室内で亡くなったと連絡があった」 「警察から、所有物件で事件があったと電話が来た」
ある日突然、このような連絡を受けたら、誰しも気が動転し、冷静ではいられないはずです。悲しみや驚きの中、何から手をつければ良いのか分からず、呆然としてしまうかもしれません。

しかし、こうした緊急時こそ、発見から72時間以内の初動対応が極めて重要です。この段階での判断を誤ると、後の手続きに支障が出たり思わぬ経済的な負担が生じたりする可能性があります。

本記事では、物件の所有者・相続人・管理会社などの関係者が、万が一の事態に直面したときに落ち着いて行動できるよう、72時間以内に行うべき対応をチェックリスト形式で解説します。

  • 警察への通報と現場保存の基本
  • 関係各所への連絡順と要点
  • 原状回復費用を補償できる保険の種類、請求に必要な書類、告知義務の考え方

切迫した状況だからこそ、この記事が少しでも参考になり、適切な一歩を踏み出す助けになれば幸いです。

30秒でわかる結論

  • 現場保存: 換気・掃除・私物移動はしない
  • 通報: 迷わずまず警察へ連絡
  • 入室: 入室許可が出るまで中に入らない
  • 連絡順:(警察通報後)家族/保証人 → 管理会社 → 保険会社 → 特殊清掃業者
  • 記録確保:清掃前写真、見積・請求書、検案書などを保管
  • 告知:判断は原状回復後、不動産会社と相談して決定

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【最初の24時間】命の確認と現場の保存

ご遺体を発見した、またはその可能性が高いと知ったとき、まず最優先すべきは「人命の確認」と「警察への通報」です。

第一発見者の鉄則は「室内に触れない」「すぐ通報」

自分が第一発見者となった場合、あるいはその可能性がある部屋を開けるときは、次の2点を必ず守ってください。

  1. 室内のものに触れない
    たとえ室内が散乱していても、片付けたり換気したりしてはいけません。現場の状況は、死因や事件性の有無を判断するための重要な証拠です。善意でも手を加えることは、証拠を損なう行為になりかねません。
  1. ただちに警察へ通報する
    「事件かもしれない」「救急車を呼ぶべきか」などと迷う必要はありません。死亡が確認された、または疑いがある時点で、まず警察へ連絡するのが正しい対応です。必要に応じて、警察が消防(救急)へ引き継ぎます。

発見直後の「やってはいけないこと」

  • 換気、掃除、消臭スプレーの使用
  • 私物の移動や片付け
  • SNS投稿や近隣住民への詳細説明(事実が確定するまでは控える)

警察による現場検証と死因の特定

通報を受けた警察が到着すると、次のような調査が行われます。

  • 現場検証
    事件性の有無を確認するため、室内を詳細に調査します。写真撮影や指紋採取なども含まれます。
  • 検視・検案
    ご遺体の状態から死因や死亡推定時刻を確認します。状況によっては、行政解剖や司法解剖が実施されることもあります。

調査の過程で、オーナー様やご家族が事情聴取を受ける場合があります。その場合は、故人との関係や発見時の状況について、分かる範囲で答えましょう。

警察から「入室許可」が出るまで

現場検証と検視が完了し、警察から「入室許可」が正式に出るまでは、たとえオーナー様やご遺族であっても室内に立ち入ることはできません。許可が出るまでの時間は、事案の内容によって数時間から数日と幅があります。

【24〜48時間】関係各所への連絡と連携

警察から入室許可が出るまでの間、または許可が出た直後からは、関係各所への連絡を進める必要があります。ケースバイケースではありますが、その後の対応をできる限り冷静に、スムーズに進めるためにも、一般的な対応の順番と要点を理解しておきましょう。

連絡の優先順位

緊急時には、誰に何を伝えるべきか混乱しがちです。下記の順序で連絡を行い、それぞれの目的と伝達内容を明確にしましょう。

  1. ご遺族・連帯保証人
    警察の初動対応が済んだ後、ご遺族や連帯保証人に状況を伝えます。ご遺族がまだ事情を知らない場合は、警察からの第一報が優先されるのが一般的です。その後、オーナー様や管理会社が改めて連絡を取り、今後の対応(契約解除、残置物の処理など)について協議・連携していくことになります。
  2. 管理会社(物件を委託している場合)
    オーナー様が第一報を受けた場合は、速やかに管理会社へ連絡し、情報を共有します。他の入居者への配慮、現場の保全、鍵の管理など、管理業務全体を見据えた対応が必要です。
  3. 保険会社
    火災保険や家主費用特約(孤独死保険)に加入している場合は、発見から48時間以内を目安に、契約先へ事故報告を行います。この際、契約番号や対象物件の情報、必要書類(写真・見積書・診断書など)について確認しておくと、後の請求がスムーズです。
  4. 特殊清掃業者
    警察の許可が出たら、すぐに特殊清掃業者へ連絡し、見積もりを依頼します。時間的猶予がない場合も多いですが、ウェブサイトや口コミなどを確認し、できる限り信頼できる業者を手配しましょう。

特殊清掃業者の選定と依頼のポイント

特殊清掃は、通常のハウスクリーニングとは異なり、高度な専門性が求められます。依頼時には以下の点を確認して、信頼できる業者かどうか確かめましょう。

  • 実績や専門性は十分か
    孤独死や事故現場の清掃実績が豊富で、感染症対策や臭気処理の知見を持つ業者か確認しましょう。
  • 見積もりは明確で分かりやすいか
    作業項目・範囲が明記された見積書を提示してくれるか。追加費用が発生する条件も事前に確認しておくと安心です。
  • 作業中、近隣住民に配慮してくれるか
    作業中の音や臭いに配慮し、近隣住民に不安を与えない対応をしてくれるかも重要な判断基準です。

連絡の整理表

連絡先目的伝える要点タイミング
警察(110)/救急(119)生命確認・現場検証住所/部屋番号/状況発見直後
家族・保証人事実共有・手続きへの協力警察対応の有無/今後の手続き入室許可待ち~直後
管理会社近隣配慮・鍵管理現場保存/周知/鍵の回収速やかに
保険会社特約確認・必要書類の準備契約番号/事案概要/写真の要件発見から24–48時間
特殊清掃業者見積・作業日程の確保入室許可日/作業範囲/搬出動線許可後すぐ

【48〜72時間】保険請求と手続き

特殊清掃や原状回復には、決して安くない費用がかかりますが、保険によって補償される可能性もあります。精神的なショックが大きい状況下で、経済的な不安を少しでも軽くするためにも、保険の知識と備えについて、しっかり確認しておきましょう。

原状回復費用をカバーできる保険の種類

孤独死などの緊急事態に備え、下記のような保険が補償対象となることがあります。それぞれの加入者と補償範囲をあらかじめ確認しておくと安心です。

保険の種類加入者主な補償内容
家主費用特約(孤独死保険)オーナー特殊清掃費、遺品整理費、原状回復費、事故後の空室期間の家賃損失
火災保険(住宅総合保険)オーナー物件そのものの汚損・破損に対する修繕費用(※契約内容による)
借家人賠償責任保険入居者入居者の過失による損害賠償(火災など)。孤独死の場合は適用が難しいケースも多い。
個人の生命保険など入居者ご遺族が相続した保険金から、原状回復費用を支払ってもらう交渉の元手となる。

特に「家主費用特約」は、オーナー様にとって非常に有効な備えです。加入している場合は、早めに保険会社へ連絡し、補償の可否や申請方法を確認しましょう。

保険金請求で漏れやすい必要書類チェックリスト

保険金をスムーズに受け取るには、客観的な証拠となる書類の提出が求められます。後で慌てないためにも、以下の資料をできる限り早い段階で準備・保管しておくことが重要です。

【警察関連の書類】

  • 死体検案書(または死亡診断書)のコピー

【費用に関する書類】

  • 特殊清掃業者からの見積書および請求書・領収書
  • 原状回復(リフォーム)業者の見積書および請求書・領収書
  • 遺品整理業者の見積書および請求書・領収書

【現場の状況を証明する資料】

  • 清掃前の現場写真
  • 清掃後の現場写真


【契約に関する書類】

  • 賃貸借契約書のコピー

※必要書類は保険の種類や契約内容によって異なります。必ず事前に保険会社に確認してください。

清掃前の写真は精神的に負担が大きい作業ですが、証拠として非常に重要です。無理をせず、業者に「保険申請用の写真を撮ってください」と依頼しましょう。

告知義務は現状回復後に判断すればOK

この時点で「次の入居者への告知義務」に不安を感じる方も多いでしょう。国土交通省のガイドラインでは、自然死や不慮の事故死は原則として告知不要ですが、特殊清掃が入った場合は告知対象となる可能性があります

ただし、この時点ではさまざまな対応に追われており、冷静な判断が難しい場合もあるでしょう。告知義務の有無は、原状回復が完了し、物件の状態が落ち着いてから、不動産会社と相談しながら慎重に判断すれば問題ありません。

まずは落ち着いて、一つずつ冷静に対応するようにしましょう。

まとめ

本記事では、物件の所有者・相続人・管理会社などの関係者が、万が一の事態に直面したときに落ち着いて行動できるよう、72時間以内に行うべき対応について解説しました。

  • 発見時
    何にも触れず、すぐに警察へ通報。「現場保存」が鉄則。
  • 関係各所への連絡
    「ご遺族・保証人 → 管理会社 → 保険会社 → 特殊清掃業者」の順で連絡。
  • 保険請求の準備
    費用に関する見積書や領収書、そして「清掃前の現場写真」を必ず確保することが、経済的負担を軽減する鍵。

孤独死や事故の発生という非日常的な事態に直面した時、最初の72時間は精神的にも肉体的にも非常に過酷な時間です。しかし、混乱の中でも一つひとつの手続きを冷静に進めていくことが、未来の負担を軽減することに繋がります。

このような状況を、一人で抱え込む必要はありません。警察、保険会社、特殊清掃業者、そして私たちのような事故物件の再生に特化した不動産会社が、このような事態に直面した時に助けになってくれるはずです。

もし今まさに対応にお困りでしたら、どうか迷わず「ふっかつ不動産」へご相談ください。初動対応から再生に向けたご提案まで、専門家として寄り添い、一日も早い解決のために全力でサポートいたします。